義歯やマウスピースの洗浄は歯磨きとは別物という指摘
ニュースの概要
米国のオーラルケア企業Voraiyaは、全米歯科衛生月間に合わせて見解を発表した。啓発活動は歯や歯茎に偏りがちで、マウスピース、リテーナー、義歯、ナイトガードなど取り外せる口腔装置の衛生管理が十分に扱われていないという。同社によれば、これらの装置は歯磨きやフロスとは別に毎日洗う必要がある。素材や構造が違えば、適した洗い方も変わる。洗い残しがあると、装置の表面に微生物の膜(バイオフィルム)が居座り、口の健康に響く恐れがあると指摘している。
引用元: Voraiya、取り外し式口腔装置の専用ケアを提唱(EIN Presswire)
分析・見解
歯を磨いても装置の汚れは落ちていない
口の中には、歯とは別の「居住者」がいる。マウスピースや義歯だ。歯ブラシで歯を磨いても、外した装置の裏側にたまった汚れは取れない。装置は毎日、唾液や食べかすに長時間さらされる。しかも夜間のナイトガードは、一晩中同じ場所に張りついたままだ。
微生物は、表面にぬめりのある膜をつくって居座る。これがバイオフィルムである。膜の内側は薬剤が届きにくく、水で流すだけでは落ちない。歯石のように固まれば、さらに落としにくくなる。
素材ごとに洗い方が違うという落とし穴
今回の指摘で最も実務的なのは、装置ごとにケアが違う点である。義歯のレジン(=樹脂)は熱に弱く、熱湯で変形することがある。金属のバネ付き部分は、塩素系の漂白剤で傷む。透明なマウスピースは、研磨剤入りの歯磨き粉で細かく傷つき、その傷に汚れが入り込む。
身近な例を挙げる。洗濯表示を見ずに何でも同じ洗剤で洗えば、服が傷む。装置も同じだ。万能の洗い方は存在しない。ここに専用品が成り立つ余地がある。
啓発の盲点は、治療の成功ほど見えにくい
歯列矯正を終えた人は、リテーナーを何年も使う。義歯の利用者は高齢者に多く、肺炎との関連も議論されてきた。口の中の細菌が誤って気道に入るためだ。つまり装置の汚れは、見た目や口臭にとどまらない。
それでも、装置の洗浄は医療者の説明が数分で終わりがちだ。患者は「入れたら終わり」と考える。治療の成功が、かえって日々の手入れを後回しにさせる。ここが啓発の盲点だと考える。
日本市場での位置づけと、証拠の質の問題
日本は高齢化が進み、義歯の利用者が多い。一方で、矯正用のマウスピースも広く普及した。装置の数が増えれば、洗浄の需要も増える。市場の裾野は小さくない。
ただし注意点がある。今回の発表は企業の主張であり、自社製品の需要を後押しする立場から出ている。装置の汚れの害を示す研究は存在するが、専用品が通常の洗浄より優れるかは、別に確かめる必要がある。需要の大きさと、製品の優位性は分けて読むべきだ。
ビジネスへの影響
歯科医院は説明の工程を一つ増やせる
歯科医院にとって、装置を渡した後の指導が差別化の材料になる。装置の受け渡し時に、素材別の洗い方を紙一枚で渡すだけでも違う。定期検診で装置の汚れを一緒に確認すれば、患者の通院の動機にもなる。費用はほとんどかからない。
メーカーや販売事業者は素材別の訴求が鍵
洗浄剤を扱う企業は、「万能」を打ち出すよりも、義歯用、矯正用、ナイトガード用と使い分けを示す方が信頼を得やすい。成分と素材の相性を明記し、第三者の試験結果を添えたい。根拠の薄い宣伝は、医療者の信頼を損なう。
導入前に確かめたい三つの点
一つ目は、素材への影響の確認である。二つ目は、洗浄効果の測定方法が公開されているか。三つ目は、患者が毎日続けられる手間かどうかだ。毎日の手入れは、手順が多いと続かない。数十秒で終わる工程に落とし込めるかが、普及の分かれ目になる。